最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)560号 判決 1953年11月12日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士藤原繁夫の上告理由第一、二点について。
貸金債務の負担に際し、抵当権の設定契約と同時又はこれに附加して停止条件附代物弁済契約がなされた場合は、特段の事由のない限り、それは代物弁済契約の予約がなされたものと解するのが相当である。蓋しかく解さなければ、期限に債務の弁済がなされないときは代物弁済契約は停止条件の成就によりその効力を生じ抵当不動産の所有権は当然債務者に帰属し、抵当権実行の余地なきこととなり、少くとも契約当事者間の関係では、抵当権設定契約は無意義となるからである。されば、かかる場合若し期限に、貸金債務の弁済がないときは、抵当権を実行するか、又は、代物弁済の予約を完結させるかは、債権者の選択するところに委されているものと解すべきこと勿論であり、そして、その予約完結の意思表示をするには、弁済期後債務者に対し為さるべきこと多言を要しないところであるが、所論のように確定日附ある書面によるべきものとする法律上の理由は存しない。しかも、原判決は挙示の証拠就中原審における被上告人本人尋問の結果に基き判示のごとく被上告人は、上告人に対し、本件弁済期の最後の延期期日たる昭和一九年一〇月末日から同二一年一一月までに代物弁済契約に基き本件土地の所有権を取得する旨の意思表示を為した事実を認定したのであるから、論旨第一点は、採用できない。また停止条件附契約は、条件成就の時からその効力を生ずるものであつて所論のように契約締結当時に遡つて効力を生ずるものでないから、所論第二点は、既にその前提において採用できない。
同第三点、第四点について。
原判決は、当事者間の合意により単に本件借受金の弁済期を昭和一九年一〇月末日まで延期したこと、並びに、同月分までの約定損害金を支払つたがその後上告人から損害金の支払も、弁済期延期の申出もなかつたことを認定したに過ぎないものである。されば、論旨はいずれも原判決の判示に副わない主張であつて、採用できない。
同第五点乃至第七点について。
論旨は、結局原判決がなした甲二号証の取捨判断を非難するに帰し、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)